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第274話 

「どうして俺にお前もついて行ったって教えなかったんだ?」と藤沢修は思った。おそらくあの夜、松本若子が遠藤西也の元へ慰めを求めに行ったのだろうと。

あの男のことを考えると、藤沢修の瞳は冷たくなる。遠藤西也に対しては、生まれつきの敵意があった。最初に彼を見た瞬間からだ。

まるで、一つの山に虎が二匹いられないように。

「別に教える必要なんてないでしょ?」と松本若子は気に留めない様子で答えた。「どうせ、あなたが桜井雅子にどれだけ執着しているか見た時点で、もうどうでもよくなって去ったの」

「お前、去ったなら家に帰ればいいものを、どうして遠藤西也のところに行った?」と藤沢修が追及した。

「......」

松本若子は黙り込んだ。

彼に言わなかったことがある。あの日の夜、大雨が降る中で彼女は苦しみ、倒れてしまい、危うく命を落としかけたのだ。

その時、遠藤西也がはるばる病院まで来てくれた。

そして、あのとき藤沢修は桜井雅子のベッドのそばで、片時も離れず寄り添っていた。

彼女は遠藤西也に感謝していた。絶望の淵にいるときに、彼は彼女に安らぎを与えてくれた。

これらのことは藤沢修には知らせない方がいい。知ってしまえば、彼女がさらに哀れに見えるだけだろう。

二人の間には再び沈黙が訪れた。藤沢修は何も言わず、ただ心が鼓動を打つように苦しく、何かに押しつぶされそうな感覚が襲ってきた。

松本若子は、彼のために新しい薬を塗り、包帯を巻き終えると、薬箱を片付けた。

「終わったわよ、もう寝て」

そう言い、松本若子はソファに戻り横になった。

藤沢修はベッドに横たわり、ぼんやりと彼女を見つめていた。

「雅子には心臓が必要だ。でも、いつ合うものが見つかるかわからないし、手術前には彼女と結婚するつもりだ」

松本若子は天井を見上げながら静かに答えた。布団の中で握り締めた手が、衣服をしっかりと掴んでいるのを感じた。「彼女の願いを叶えたいなら、早く結婚すればいい。心臓なんて、そう簡単には見つからないわ」

彼女は痛みを感じていたが、その痛みにはどこか鈍さも混ざっていた。

正確に言うと、慣れてしまったのだろう。今となっては二人はもう離婚したのだ、だから彼女はこの痛みに慣れなくてはならない。

慣れた痛み。

最後には、麻痺するまでに。

「もしお前が将来誰かと結婚したくなったら、俺
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